2019年7月号
2019年7月号
平成30年版在宅時医学総合管理料居宅、75歳 男性 肺がん(改訂)
75歳、男性、肺癌。 総合病院より、状態は悪いが少しでも家にいたいというご本人の意向で退院したい、と地域連携室より訪問診療の依頼があった。
退院の2日前にご家族と面談し、ご本人の病状、1日の過ごし方、ご家族の意向、不安について聞いた。ご家族は状態が悪いため、家での看病に不安を強く感じているが、ご本人がどうしても家に帰りたいと話すため、やはり家に迎えようと考えているとのことだった。
退院の前日に、連携する訪問看護ステーションの看護師長と共に、総合病院に出向き退院前カンファレンス(退院時共同指導)に参加した。家族とは面談が済んでいるため、家族が感じている不安を医師、看護師が代弁することができ、より内容のあるカンファレンスとなった。本人にも、きちんと顔を合わせて意向を確認できた。やはり「家に帰って過ごしたい」という気持ちはとても強いことが分かった。自分では排尿できないため、膀胱留置カテーテルが挿入された状態で退院することとなった。
そして、退院日となり、最初の訪問診療を実施した。前日に退院前カンファレンスで話し合えたため、不安なくスムーズにスタートできた。
とある研究では、在宅での生活が始まったとき最初の4日間、医療者が訪問すること、強い苦痛がないこと、配偶者がいることなどが、在宅での看取りを達成するポイントであることが指摘されている。(Jeurkar N, J Clin Oncol, 2012)退院までに何回も顔を合わせることで、本人よりも、家族の不安が軽減できている様子だった。 そして退院当日。入院中は補液をしていたが、退院のこの日は、補液をしていなかったため、ソリタT1 500mlを投与した。 診察、家族への退院後の生活の話し合い、点滴を含め滞在時間は90分であった。
本人には、やはり家に帰ってますます家で終生過ごしたいという意向を確認した。家族とは、本人に声が聞こえないよう配慮し、玄関外に出てから、本人を看取ることの不安、また看病で分からないことを、立ち会った訪問看護師と一緒に話し合った。
在宅での暮らしが始まり、ほっとした時間もあったが、退院の2日後に、容態が急変した。急に呼吸の様子が変わったと。訪問看護師がまず緊急訪問し、本人の状態を確認したが、すでに容態は悪く看取りに向かっている様子であることが分かった。 そこで、外来患者の対応もそこそこにすぐに緊急の往診をした。
17時に到着すると、すでに呼吸をしていなかった。診察し、しばらく様子を見守っていたが、やはり呼吸は再開しなかったため、死亡の確認をした。死亡時刻は、家族によると到着の30分前、16時30分(午後4時30分)には完全に息をしなくなっていたとのこと。その時刻を死亡診断書の死亡時刻とした。
(死亡時刻=患者が亡くなったと推測される時間、死亡確認時刻=医師が死亡を確認した時刻。死亡診断書には死亡時刻を記入する 平成31年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル p6参照)
2019年7月5日金曜日
家族面談で大事なこと2つ。(当院の場合です)
①同意書をもらうにあたって説明すること。
1.月一回以上定期的に訪問診療すること。
2.保険診療の一部負担金額とその目安。
3.交通費が自費であること。
4.個人情報の取り扱いについて。
5.支払い方法は口座振替であること。(当院の場合です。事務員は往診に同行せず、医師は全くお金のやりとりをしないと決めています。)
②家族の気持ちの確認。ご家族間で意見がまとまっていない場合、皆さんに医院までお越し頂いて家族面談を行うことがあります。医師のリードで話し合いが行われ、よい決断がうまれることが多々あります。家族形態は様々なので、臨機応変にそして丁寧に対応しなければなりません。ご本人とご家族それぞれの気持ちが同じ方向を向くことを目標とします。
病院の地域医療連携室から紹介があった時にまず確認すること、3つ。(当院の場合です)
(1)「ご住所は?」訪問の範囲は○○町〜○○町までと、おおよそ決めています。範囲外の方ですと、スケジュール的に無理な場合もあるので、最初に住所を聞いてから次の話へ。(保険請求上のルールは16kmまで。特別な理由がある場合は、それ以上でも可能。例えば専門的な治療など)
(2)「ご病名は?」当院は緩和ケアが専門なので、癌の方優先でお受けしています。その他のご病気の方の枠は一杯になりがちですので、少々お待ち頂くこともあります。癌の疼痛に苦しんでいるなど緩和ケアを必要とする方がたくさんいらっしゃるので、緩和ケア医として少しでも専門的な知識を提供して差し上げたい気持ちです。
(3)「ご本人とご家族は、訪問診療を希望されていますか?」訪問診療の開始要件の一つです。往診、訪問診療を希望していることを確認してから、話を次に進めます。もちろん、何をどうしてよいか迷っている方が多いのですが、例えば、家で療養する気がまったくない方もいらっしゃいます。そのような場合、紹介もとである病院の連携室から、改めて他院やホスピスを紹介してもらうようアドバイスして家族面談を終了することもあります。
算定:「退院時共同指導料」を算定したので、初診+往診ではなく、「C001 在宅患者訪問診療料」を算定します。さらに、診療時間が1時間を超えたため、「診療時間加算・・100点」が算定できます。(診療時間が1時間を超えた場合30分又はその端数を増す毎に算定)
在医総管は、C001在宅患者訪問診療を月に1回以上(往診はカウントしない)で算定できます。(2018年より月1回でも算定できるようになりました)
在宅医療の場合、呼吸停止する瞬間に立ち会うことは、現実にはほとんどありません。また心停止、呼吸停止、瞳孔散大を死の三徴候として確認しますが、死亡確認の方法について、具体的に手順を明記された根拠はありません。(医師法にも定められていない。例外として臓器移植法の臓器の移植に関する法律施行規則には定められています)
ですから、医師は呼吸停止の瞬間に立ち会うことは求められていません。また呼吸停止から、死亡確認までどのくらいの時間以内に死亡確認するべきかを決めたものもありません。
在宅でも、病院でも深夜に死亡した場合、翌朝に死亡確認することに全く問題はありません。