2014年12月号
2014年12月号
エピローグ
複雑怪奇、孤立無援の在宅医療 (事務員編)
しんじょう医院は2012年8月に開院しました。不思議なご縁に導かれ、医院の立ち上げから在宅医療の事務を担うことになった私ですが、実はそれまでは医療行為に点数が付いていてそれがレセプトと呼ばれていることをおぼろげに知っている程度でした。ましてや在宅医療の事務がこんなに複雑怪奇なものとは。
さて、開院前の準備期間に、まずニチイで医療事務とドクターズクラークの勉強をさせてもらいました。しかし、在宅医療についてはほんの少しお愛想ていどに触れるだけ。講師の方に尋ねてみても全く経験がないご様子。まだまだマイナーな分野、いや先駆的な分野なのだと思うと、妙にチャレンジ精神が刺激されてワクワクします。そして、いよいよ開院前2週間、連携している医院3軒へ修行に。ここでは在宅医療の基本をみっちり教えてもらいました、と言いたいところですが、それよりも、皆さんと顔の見える関係になったことが一番の収穫でした。つまり、私の最初の人脈ができたわけです。医院スタート直後は、予想通り、困ったことの連発です。保険証のことから診療報酬の点数のことまで、なんでもかんでも電話で相談して助けて頂きました。
ある連携医院の事務の方が、「わたしたちは神戸の在宅医療の先頭を走っていると思うの。そういう自負を持ってやっていこう」とおっしゃいました。今でもこの言葉を励みにしています。河の流れは小さな源流がいくつも集まって、やがて大きな流れになるのです。在宅医療の事務は多岐にわたっていて、試行錯誤の部分も多く、すべてを完璧に理解することは永遠になさそうです。しかし、それぞれの医院の事務担当者が孤軍奮闘していないで、知識を皆で共有できれば大きな力になるはず。知らないことが出てきた時は、誰に聞けば適確に教えてくれるかを思い出すのが、案外いちばんの近道です。
レセプト道場を読んで下さった全国の皆さんとも、どこかでセッションできる日を夢見ています。
しんじょう医院 事務主任 K.M 記
2014年12月26日金曜日
シャーマンドクター
この1年間、しんじょう医院での取り組みから学んだ、医療のお金に関することをまとめて公表してきました。在宅の保険点数はとてもわかりにくいと言われることから、調べながら得たノウハウを惜しげもなく公表することは、院長である私と事務員の考えでした。きっとどこかで困っている方がいてその方に届けば良いなと思い、取り組んで参りました。この連載が終わってからも何らかの方法で本ページにたどり着いた方、どうか参考にして下さい。
さて、私は医師で医療技術よりもむしろ、医療の歴史的な呪術性をとても重視しています。特定の物質や技術、薬や医療処置で人は癒やされるのではないと確信しているからです。特に在宅医療のような、先進的な医療技術からは遠い医療現場でもなお、医療の力を最大化するには、この呪術性を利用するほかありません。「(患者自身が)私が分からないことを、この医師は見通している」そして、「先生に診てもらえただけで、何だか良くなった気がします」というのが呪術性の基本だと思っています。
呪術性を損なうものは、あからさまな自分の開示です。私は絶対に普段着では診察に伺いません。必ず白衣を着て、自分自身の社会的な役割を演じます。そして、患者、家族の方とは直接お金のやりとりは一切致しません。銀行の引落や、事務の方を通じてお金をやりとりします。また、あからさまなコスト計算、物品の値切り交渉、医療・衛生物品のコストを最小化することにも関心を示しません。全ては自分の周囲の方々にお任せしています。
もちろん私の仕事を最大限保険点数として、換算し医院の経営の安定化には格段の努力を必要とします。そんな、私の医師としての信念と医院の経営を支えて下さる事務員の方々と、周囲の人たちに深く感謝しています。
しんじょう医院 院長 新城 拓也